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アメリカン・ドラマの1年を振り返る ’12~’13年シーズンをどこよりも早く(?)総括! (その1)

2013年3月19日
徐々に勢いを盛り返しつつあるネットワーク系ドラマ

米テレビ界の1シーズンは基本的に毎年9月~5月なので、まだちょっと気が早いんじゃない!?と突っ込まれるかもしれませんが(笑)、今回は’12~’13年にかけてのアメリカン・ドラマの動向をざっくりと総括してみたいと思います。

まずネットワーク系ドラマに目を向けてみると、特筆すべきは放送10年目に突入した長寿番組「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」の大健闘でしょう。これまで日本でも“全米視聴者数ナンバー・ワン”と謳われてきた作品ですが、厳密に言うと“ドラマ作品の中では”という前置きが必要。つまり、「アメリカン・アイドル」のようなリアリティ番組やスポーツ中継番組などが混在するラインナップにおいて、ドラマ作品だけに限ってみれば視聴者数1位という位置づけだったわけです。

ところが、今シーズンはその「アメアイ」の視聴者数が伸び悩んでいることもあってか、なんと「NCIS」が全ネットワーク系番組のトップに君臨しそうな勢いなんですね。実際、3月10日時点のシーズン総合ランキング(ニールセン調べ)では、平均視聴者数2200万人超えで堂々の1位。昨シーズンの1949万人という番組最高記録を大幅に更新しました。そもそも10年間連続で視聴者数を伸ばし続けているテレビドラマというのも極めて稀。いや、ほとんど前例がないと言って良いでしょう。その理由についてはまた別の機会に詳しく検証出来たらと思いますが、いずれにせよ今シーズンは「NCIS」がひとつの頂点を極めた記念すべき年だったと言えるかもしれません。’08年以来ほぼ毎年メインキャストに現地でインタビュー取材している筆者としても、この快挙は本当に喜ばしい限りです。

ちなみに余談ですが、実際に彼らと接してみていつも感じるのは、とにかく共演者同士むちゃくちゃ仲がいいということ。例えばダッキー役のデヴィッド・マッカラムが撮影オフの日にみんなを自宅に招いて手料理を振舞ったりと、プライベートでも家族同然の付き合いなのだそうです。これまで数多くの海外ドラマの現場を取材してきましたが、これほどキャスト同士が仲むつまじい作品も珍しいと思います。たいてい、撮影では仲良くてもセット以外での交流はそれほど…という感じですからね。その和気あいあいとしたムードは本編を見ていても感じられるはず。キャスト同士のチームワークの良さというのも、「NCIS」が長く愛されている理由の一つかもしれません。

閑話休題。先ほど述べたように今シーズンの「NCIS」は平均視聴者数2200万人以上を記録しているわけですが、実はこれもまた今期の米テレビ界を象徴する出来事と言えるでしょう。というのも、ドラマ作品の平均視聴者数が2000万人台に達したのは、’06~’07の「CSI:科学捜査班」シーズン7以来実に6年ぶりのことなんです。

そればかりか、今シーズンは「ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則」や「NCIS: L.A.~極秘潜入捜査班」、「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」、「モダン・ファミリー」といったランキング上位の人気番組も、昨シーズンから大きく視聴者数を伸ばしている。ここ数年、ケーブル系ドラマの人気とクオリティに圧倒されて低迷を続けてきたネットワーク系ドラマですが、ここへ来て徐々に勢いを盛り返しつつあるように見えます。現時点で総合ランキングのトップ20に新作ドラマが3本入っていることからも、そんな兆しが伺えることでしょう。なにしろ、このところ数字的にも批評的にもパッとしない新作ドラマが圧倒的に多かったですからね。

まずは現代のニューヨークを舞台にしたシャーロック・ホームズ物「Elementary」。相棒のワトソンを女性(ルーシー・リュー)に設定するという奇抜なアイディアで話題を呼んだ作品ですが、ユーモアとひねりを効かせた知的なストーリーが高評価につながったと言えるでしょう。


「Elementary」ルーシー・リュー(左)、ジョニー・リー・ミラー
Andrew Evans / PR Photos

また、原因不明の大停電による文明社会崩壊後の世界を描いた「レボリューション」も、まずはスケールの大きな設定で視聴者の興味を惹きつけつつ、しっかりと濃密かつ複雑な人間ドラマを描いていくという正攻法が功を奏したのではないかと思います。


「レボリューション」トレイシー・スピリダコス
Andrew Evans / PR Photos

さらに、’60年代のラスヴェガスを舞台にした「Vegas」は、映画「グッドフェローズ」や「カジノ」で有名な脚本家ニコラス・ピレッジが企画・脚本・製作総指揮を手がけた野心作。ラスベガスの治安をめぐる実在の保安官とマフィアのボスの戦いを描いた作品で、大物映画俳優デニス・クエイドのドラマ初主演作としても話題を集めました。ちょうど筆者は昨年の秋に、デニスやマイケル・チクリス、キャリー・アン・モスといった主要キャスト及び製作者アーサー・M・サルキシアンにL.A.でインタビューをしたのですが、彼らの話によると本作はもともと劇場用映画として企画された作品だったのだそうです。しかし紆余曲折を経て、テレビシリーズとしてゴー・サインが出た。その背景として、「マッドメン」や「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」といった時代物ケーブル系ドラマの成功が強く影響を与えたと見て間違いないでしょう。そういえば、「レボリューション」にしても設定的には「ウォーキング・デッド」と相通ずるものがありますよね。


「Vegas」デニス・クエイド
Travis Jourdain / PR Photos

そう考えると、質の高いケーブル系ドラマがいい具合にネットワーク系ドラマへ刺激を与えている…と考えてもいいかもしれません。来シーズンも、このような相乗効果を是非とも期待したいものです。

なお、「新ビバリーヒルズ青春白書」、「プライベート・プラクティス」、「30 ROCK」、そして「フリンジ」といった人気ドラマが今シーズンでフィナーレを迎えたことも最後に付け加えておきましょう。「新ビバヒル」のアナリン・マッコードやシェネイ・グライムスとは、シリーズのスタート当初に現地でインタビューをして記念写真まで一緒に撮ってもらった思い出があるので、個人的にはちょっと寂しい気もします。また、近年の海外ドラマの中では「トゥルーブラッド」と並んで最も好きな「フリンジ」の終了も残念でなりません。

=> 新作の少なかったケーブルは看板ドラマが安定した人気を維持 (その2に続く)