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少女ホームレス、リストカット…実体験をもとに張本人が演じる戦慄リアリティ『神様なんかくそくらえ』

2015年11月2日
『神様なんかくそくらえ』。挑発的かつインパクト大の邦題、しかしその題名こそ、本作の“色”を見事に表した秀逸なタイトル。物語の舞台はニューヨーク、しかし映し出されるものに、同じくN.Yが舞台の人気海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」的世界観はゼロだ。少女ホームレス、リストカット、荒んだ毎日、ドラッグ、喧嘩、不毛な愛など、へヴィな“ニューヨーク”の姿があぶりだされる。

ヒロインのハーリーは19歳の薬物中毒者。何をするでもなく街をぶらつき、物乞いをする日々を送っている。暇になれば自分と同じような路上生活者やケチな売人とたわいもない会話を交わし、万引きを繰り返す。「クスリをバンバンきめて、ぶっ飛ぶ」事だけが人生で唯一の楽しみで、そのためなら売人にも体を許す。まさにストリートがホーム。破天荒を地で行く暮らしを送っている。



しかしそんなハーリーにも、淡い恋心を抱く相手がいる。同じような生活を送る、全身黒系ファッションのイリヤだ。図書館のパソコンを拝借してアンダーグラウンドなブラックメタル・ミュージックを聴き、ファーストフード店のトイレでドラッグをキメすぎてオーバードーズになる事もしばしば。カッターナイフの刃を集めて作った“お手製手裏剣”をポケットに忍ばせるアブナイ奴で、もちろん24時間目はうつろの半開き状態だ。それでもハーリーにとっては、運命の人に映る。

だが当のイリヤには、そんな思いはまったく通じない。ラブレターを渡そうとしても「淫売!死ね!」と罵倒される始末で、泣き叫んで愛を伝えようものなら「そこまで俺の事が好きなら死んでみろ!このクソが!」と返されてしまう。自暴自棄になり、その言葉を実現させれば自分の愛は通じると信じたハーリーは、突発的に手首を切る。もちろん白昼の路上で、だ。



ヒロインのハーリーを演じたアリエル・ホームズを始め、登場する俳優陣のほとんどがリアル・アウトサイダー。そもそもアリエルこそ、この物語の原作者であり、ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟監督が偶然路上で出会ったストリート・ガールだった。美しい顔立ちに反して、そのみすぼらしさのギャップに惹かれた監督は、アリエルの口から語られるエピソードを聞く中で、彼女の人生を映画化しようと決意する。その期待に応えるべくアリエルは、自殺未遂を起こして精神病院に入院するハプニングも何のその、街中のアップルストアのパソコンを駆使して150ページに渡る自伝的原作小説「MAD LOVE IN NEW YORK CITY」を執筆した。

主要キャストの中で、プロの俳優はハーリーが恋する男・イリヤを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズぐらい。ハーリーがイリヤとのゴタゴタで自殺未遂をした後に行動を共にする売人のマイクを演じるバディ・デュレスは、本作撮影後に規制物質取締法違反で逮捕されるなど、映画そのままのデンジャーな人生を歩んでおり、出所した現在は演技の勉強をしているらしい。バディの演技ではない、それまでの日々の積み重ねから生まれたナチュラルな半目状態は一見の価値あり。



とにかく画面に登場する人物全員から、危ないオーラがプンプン漂っているのが魅力であり迫力。ハーリー役のアリエルをはじめ、ホンモノを起用したことによって、画面に登場する人物全員に“その道を歩んできた人”にしか出せない表情と味があり、彼らの顔を意図的にアップで映し出したことによって、ざらついたリアルな凄みが作品全体に漂っている。

ハーリーの周りには、同じような仲間が沢山いる。しかしその間には、友情、絆、愛などは一つも存在していない。動物が無意識に群れをつくるのと同じ原理で、行動を共にするのは単に部外者から身を守るためであり、結局は誰もが孤独だ。イリヤに対するハーリーの愛も、互いを思いやるような慈しみからくるものではなく、寂しさからくる依存でしかない。それをハーリー自身気付いていない。それはあまりにも愚かな愛だ。それぞれの顔をアップで狙うショットは、そこに漂う孤立感をより強調している。



街のサバイバーである彼らのすさんだ動物的な険しい表情に肉薄するその後ろに、N.Yの街並みが見えるが、危ういバランスの上に成り立っている彼らの生き様を通してぼんやりと見えるその街並みには、煌びやかさも華やかさもない。もう一つのリアルなN.Yの姿を見せずして、語る。「セックス・アンド・ザ・シティ」などでは描かれることのない街の姿がそこにある。

無名監督によるインディペンデント映画ながら、第27回東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞をW受賞。審査委員長を務めた映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン監督は「一瞬で魅了された、これこそ真の映画だ」との賛辞を送っている。ヒロインを務めたアリエルの演技初挑戦とは思えぬふてぶてしいまでの存在感は各映画祭で注目を集め、次回作ではシャイア・ラブーフと共演するそうだ。(石井隼人)

映画『神様なんかくそくらえ』は、12月26日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開。

『神様なんかくそくらえ』公式サイト

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