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映画「LOVE」ギャスパー・ノエ監督インタビュー: なぜ無修正はNGなのか?フランスの問題児が映倫に物申す「より卑猥になる」
2016年3月24日
映画「LOVE」ギャスパー・ノエ監督
日本のモザイク文化に怒り心頭のフランス人がいる。約6年ぶりの長編新作映画『LOVE【3D】』が公開待機中の監督、ギャスパー・ノエだ。暴力的かつ極端な描写で毎作物議をかもす鬼才の新作は、自身初の3D技術を駆使した悲恋の物語。ノエ監督は「メランコリックかつセンチメンタルな恋愛映画」と解説するが、映し出されるのは肉体をむさぼり合う恋人たちの赤裸々でエロチックな姿。一般映画では描写が避けられがちな、肉体的恋愛行為をノエ監督は長回しでじっくり3D映像で捉える。もちろん日本でのレイティングは“18禁”だ。
確かに劇中の性描写だけを取り上げると、ハードにも思える。しかし根幹にあるテーマは、ノエ監督初期の映画『カルネ』から追い続けてきた“愛の喪失”。それが恋愛映画というハマりやすい素材によって、よりストレートに響く。また本作製作直前に、ノエ監督は最愛の母親を亡くし、数カ月間、何も出来ずに打ちひしがれていたとういう。その心境も色濃く反映されている。ゆえにライトな印象を抱く単語のタイトル“LOVE”も、実は真逆の意味を込めて用いられている。
「物語の構想が生まれた時のタイトルは“デンジャー”。なぜなら愛こそ危険な病だから。恋に落ちると人間は豹変し、盲目になり、正気だって失う。愛を失わないためのプレッシャーや恐怖は、人間にとって尋常ならざるストレスになる。愛こそ、精神面での戦争だ。決定タイトルとなった“LOVE”は、最大の皮肉でもある」。
そのあけすけな描写ゆえに、日本では至る所にモザイク処理されたボカシ映像が挿入される。そもそもノエ監督はモザイク処理の常連監督。日本を舞台にした前作『エンター・ザ・ボイド』、さらにモニカ・ベルッチ&ヴァンサン・カッセルが夫婦共演した『アレックス』もモザイク処理が施された映像が随所にみられた。それら映倫の処置に対してノエ監督は常々異議を口にしてきたが、今回も既存のモラルと戦う“キング・オブ・モザイク”監督として苦言を呈する。
「女性の裸の美しさは自然体にこそ宿る。そこにボカシをかけると美が半減するし、モザイクがかかることによって映っているもの以上を想像してしまい、より卑猥になる。ポルノ映画ではないのにポルノっぽくなるし、想像力が増してより下品になる。これはポルノ映画ではない。センチメンタルでメランコリックな恋愛もの。ボカシが入る事によって、作品の持つ意味合いが変ってしまう」。ノエ監督は、モザイク処理によって自身が意図するテーマがボカされてしまうと危惧する。
インターネットの普及と発達に触れながら「映倫のモザイク処理に対する考えは変わらないのか?今の時代、インターネット上には無修正映像が氾濫しているにも関わらず、国内の映画館のスクリーンで上映するためには不要なモザイクが必要。その基準とルールが私には理解できない」と首をひねる。また隠したり上映禁止にしたりする事で、正規ルートでの流通以上に“地下ルート”が活性化する原因にもなるという。「ロシアでは上映禁止になった事によって逆に話題を呼び、興味を持ってインターネットを通して違法で鑑賞する人が沢山いた。またイランでは海賊版が出回り、若者のほとんどが鑑賞している映画になった。これは明らかな矛盾だ」と実例を挙げる。
日本人としての驚きは、本作がフランス政府からの助成金を受けて製作されたということ。「フランスは英語圏に比べて、こういった映画でもお金を集めて映画を作りやすい国でもある。製作に本腰を入れようとしたタイミングで、フランス政府が3D映画に対して助成金を出すという状況になった。応募したら運よく通過して、助成金を得ることが出来た」と舞台裏を明かす。
日本の映倫に対してご立腹のノエ監督だが、スタッフロールにはある日本の映画人の名前がクレジットされている。その人物こそ、映画『愛のコリーダ』をプロデュースした反骨の映画監督・若松孝二だ。「大島渚監督・若松さんプロデュースの『愛のコリーダ』は、ヨーロッパ圏では未だに語り継がれる作品であり、日本が世界に誇るべき作品。私自身、あの映画を観た時は衝撃を受けた。にもかかわらず、若松監督はアメリカなどではほとんど無名。これはおかしいと思うし、今回同じようなテーマの映画を製作した人間として、リスペクトの意味で名前を記入させてもらった」と、同志として最大限の敬意を表している。
既存の表現方法に疑問を呈しながら唯一無二の作品を生み出し続ける、フランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督。賛否両論を巻き起こしながらも、熱狂的なファンの支持を集める理由は、映画に対する熱いハートにある。これら訴えが通じる日は、果たして訪れるのだろうか。
(石井隼人)
【動画】『LOVE【3D】』予告編
■公開情報:
『LOVE【3D】』
2016年4月1日(金)新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト: //love-3d-love.com/
確かに劇中の性描写だけを取り上げると、ハードにも思える。しかし根幹にあるテーマは、ノエ監督初期の映画『カルネ』から追い続けてきた“愛の喪失”。それが恋愛映画というハマりやすい素材によって、よりストレートに響く。また本作製作直前に、ノエ監督は最愛の母親を亡くし、数カ月間、何も出来ずに打ちひしがれていたとういう。その心境も色濃く反映されている。ゆえにライトな印象を抱く単語のタイトル“LOVE”も、実は真逆の意味を込めて用いられている。
「物語の構想が生まれた時のタイトルは“デンジャー”。なぜなら愛こそ危険な病だから。恋に落ちると人間は豹変し、盲目になり、正気だって失う。愛を失わないためのプレッシャーや恐怖は、人間にとって尋常ならざるストレスになる。愛こそ、精神面での戦争だ。決定タイトルとなった“LOVE”は、最大の皮肉でもある」。
そのあけすけな描写ゆえに、日本では至る所にモザイク処理されたボカシ映像が挿入される。そもそもノエ監督はモザイク処理の常連監督。日本を舞台にした前作『エンター・ザ・ボイド』、さらにモニカ・ベルッチ&ヴァンサン・カッセルが夫婦共演した『アレックス』もモザイク処理が施された映像が随所にみられた。それら映倫の処置に対してノエ監督は常々異議を口にしてきたが、今回も既存のモラルと戦う“キング・オブ・モザイク”監督として苦言を呈する。
「女性の裸の美しさは自然体にこそ宿る。そこにボカシをかけると美が半減するし、モザイクがかかることによって映っているもの以上を想像してしまい、より卑猥になる。ポルノ映画ではないのにポルノっぽくなるし、想像力が増してより下品になる。これはポルノ映画ではない。センチメンタルでメランコリックな恋愛もの。ボカシが入る事によって、作品の持つ意味合いが変ってしまう」。ノエ監督は、モザイク処理によって自身が意図するテーマがボカされてしまうと危惧する。
インターネットの普及と発達に触れながら「映倫のモザイク処理に対する考えは変わらないのか?今の時代、インターネット上には無修正映像が氾濫しているにも関わらず、国内の映画館のスクリーンで上映するためには不要なモザイクが必要。その基準とルールが私には理解できない」と首をひねる。また隠したり上映禁止にしたりする事で、正規ルートでの流通以上に“地下ルート”が活性化する原因にもなるという。「ロシアでは上映禁止になった事によって逆に話題を呼び、興味を持ってインターネットを通して違法で鑑賞する人が沢山いた。またイランでは海賊版が出回り、若者のほとんどが鑑賞している映画になった。これは明らかな矛盾だ」と実例を挙げる。
日本人としての驚きは、本作がフランス政府からの助成金を受けて製作されたということ。「フランスは英語圏に比べて、こういった映画でもお金を集めて映画を作りやすい国でもある。製作に本腰を入れようとしたタイミングで、フランス政府が3D映画に対して助成金を出すという状況になった。応募したら運よく通過して、助成金を得ることが出来た」と舞台裏を明かす。
日本の映倫に対してご立腹のノエ監督だが、スタッフロールにはある日本の映画人の名前がクレジットされている。その人物こそ、映画『愛のコリーダ』をプロデュースした反骨の映画監督・若松孝二だ。「大島渚監督・若松さんプロデュースの『愛のコリーダ』は、ヨーロッパ圏では未だに語り継がれる作品であり、日本が世界に誇るべき作品。私自身、あの映画を観た時は衝撃を受けた。にもかかわらず、若松監督はアメリカなどではほとんど無名。これはおかしいと思うし、今回同じようなテーマの映画を製作した人間として、リスペクトの意味で名前を記入させてもらった」と、同志として最大限の敬意を表している。
既存の表現方法に疑問を呈しながら唯一無二の作品を生み出し続ける、フランスの鬼才ギャスパー・ノエ監督。賛否両論を巻き起こしながらも、熱狂的なファンの支持を集める理由は、映画に対する熱いハートにある。これら訴えが通じる日は、果たして訪れるのだろうか。
(石井隼人)
【動画】『LOVE【3D】』予告編
■公開情報:
『LOVE【3D】』
2016年4月1日(金)新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト: //love-3d-love.com/
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